こちらの記事では、コーチングやマインドの上手な使い方の視点から見た、「理想的なリーダーのあり方・あるべき姿・役割」について考えてみましょう。
コーチングとは、人や組織の壮大なる目標であるゴールを設定して、そのゴールを実現するための「マインドの上手な使い方」のことです。
リーダーの役割とは?
リーダーとは、文字通り、「人や組織や集団をリードする人」のことです。
それは企業の経営者であったり、何らかの大きな組織のトップを指す場合もありますし、小さな集団やユニットを治める人や、部署やチームを率いる責任者かもしれません。
いずれにしろ、何らかの集団をまとめ、マネジメントする人のことです。
リーダーとは、一体どうあるべきなのでしょうか? リーダーの本当の役割とは何なのでしょうか?
ここでは、コーチングの視点に立って、解説をしていきます。
STAGE1: 組織のゴール・集団の目的地
リーダーは、まず最初に、何といってもゴールを定めなければなりません。リーダーが率いる「集団の目的地」のことです。
個人や組織を問わず、人間は思いもしないことは、決して実現できないからです。組織や集団が存在するのであれば、そこには必ず、人が集まる理由と存在意義というものがあるはずです。
それを一般に、「企業理念」とか「組織の目標」とか、「使命」や「役割」「ビジョン」などと表現します。要は「組織の目的地」のことです。目的地があってはじめて、行動が生まれるのです。
ですから、リーダーがまず最初にすべきこととは、「目的地の明示」です。
企業であっても、非営利組織や団体であっても、スポーツチームやビジネスユニットであっても、何らかの小さな集団であっても、それはまったく同じことです。
企業や組織が、組織の存在足り得るためには、その大前提に「組織のゴール」が必要なのです。
コーチングの場合、組織のゴール設定には、以下のような3つのルールが存在します。
- ゴールは「現状の外側」に設定する
- ゴールは本音で望むことを設定する
- ゴールは組織の各方面・各分野に設定する
※ 「現状の外側」のゴールとは、現在の延長線上の未来では到底起こり得ない、組織自身・組織全体が大きく変わらない限り決して達成できないような、遠く高いゴールのことです。ゴールの達成方法が現時点ではまるで見当もつかないような壮大なゴールです。
STAGE2: 組織全体のエフィカシーを高める
次にリーダーが考えるべきことは、エフィカシーを高めることです。エフィカシーとは、「ゴールを達成することができるという自負心・自己効力感」のことです。
エフィカシーの働きについて最も端的に言い表せば、人は自分が思ったとおりの人間になり、そのような人格と自己イメージを脳内に形成しますから、「自分ができる」と思ったことはできるし、できないと思えばできないのです。
ですから、目標やゴールを達成するための自信や確信、すなわち、エフィカシーを高めることがゴール達成には必要不可欠なのです。
Whether you believe you can do a thing or not, you are right.
There is no man living who isn’t capable of doing more than he thinks he can do.
Henry Ford
できると思ってもできないと思っても、そのどちらも正しい。
どんな人間も、自分が思っている以上のことができる。
ヘンリー・フォード(自動車会社フォード・モーター創設者)
リーダーは、エフィカシーについて十分に理解しておくことがとても大切です。前述したとおり、エフィカシーが感じられないものに対して、人はそれを実現することは決してできないからです。それがマインドのカラクリであり、自己イメージの働きです。
一個人の人間が、何らかの目標達成を目指す場合、自分自身のエフィカシーさえ高めることができれば、それで済む話なのですが、企業や組織やチームなど、複数の人間が関わる場合においては、組織のゴールを達成するために、組織全体のエフィカシーがどうしても必要になります。
ですから、リーダーの役割とは、自分自身のエフィカシーを高めるのはもちろんのこと、リーダーが率いるチームや組織の構成員たち全員のエフィカシーを高めることが求められます。「集団的なエフィカシー」が重要なのです。
エフィカシーを高めるためにリーダーのすべきこと
エフィカシーは、何によって高められるのでしょうか?
これを十分に理解し、真摯に実践することこそが、真に求められるリーダーの役割と素養です。
① ピグマリオン効果
この記事を読んでいるということは、あなたはリーダーという立場に置かれているか、もしくは、そのようなポジションが予期されたり、その心づもりであるはずです。
ところで、あなたは、部下や構成員たちの幸福と成功を信じていますか? あるいは、「ピグマリオン効果」という現象をご存知でしょうか?
【ピグマリオン効果】
ピグマリオン効果とは、私たちが他者に対して特定のイメージを持って他人に接すると、その相手はそのイメージどおりに振る舞い、行動を取るようになるというものです。
ピグマリオン効果は、学校教育や教育心理学の現場ではよく知られている事実です。
先生が生徒に対して「この生徒はよくできる」と思っていると、その生徒は本当に伸びていきます。逆もまた然りで、指導者が生徒や教え子に対して考えていることが、そのまま現実になり、生徒はそのように振る舞うようになるのです。
ピグマリオン効果に関する、この事実の科学的な実験・検証というのは意外と古くから知られ、行われています。
- 無作為に選んだ生徒のグループ「A・B」を用意します。
- 先生には以下のように伝えます。
Aグループ: 「非常に優秀な生徒たち」
Bグループ: 「成績のよくない出来の悪い生徒たち」
Aグループの生徒たちは、無作為に選んだはずの生徒たちですが、本当に高い能力と成績を収めるようになります。
Bグループの生徒たちも、無作為に選んだはずの生徒たちですが、総じて能力や成果、成績が伸び悩みます。
「信じる者は救われる」などと言われますが、これは自分に対しても他人に対しても真実です。ことエフィカシーに関して言えば、なおさらです。
上記のピグマリオン効果の例は、教育現場での話ですが、この現象はどのようなグループや組織に対しても同様に働きます。
組織や何らかのグループにおいて、リーダーがその構成員たちをどのように考えているのかが、その後のグループ全体の能力やパフォーマンスや成果に、ことごとく直結していってしまうのです。
② 肯定的なモチベーションの正体
人が本当の意味でのやる気やモチベーションを発揮し、潜在能力を引き出し、成果を収めるためには、「内面から自発的に生じる肯定的なモチベーション」を利用しなければなりません。
モチベーションというのは、じつは本質的に、以下の2種類しかないのです。
- 本心で「したい」と思える感情
(内面から自発的に生じる建設的な動機づけ)
⇒ 「Want-to」: 高いパフォーマンスを発揮 - 仕方なく「しなければならない」と思ってしまう感情
(外部からの圧力による強制的な動機づけ)
⇒ 「Have-to」: 能力やパフォーマンスを発揮できない
モチベーションに関する詳しい解説はこちら
内面から自発的に生じる「建設的なモチベーション」を引き出すためには、組織の理念や目標が、建前のようなものではなく、本音で望んでいることでなければ、うまくいきません。
- ゴールは「現状の外側」に設定する
- ゴールは本音で望むことを設定する
- ゴールは組織の各方面・各分野に設定する
そしてまた、リーダーが威圧的な態度を取ったり、高圧的な指示や命令をしたり、強制感や強迫観を伴う感情を利用すると、上記の2つ目のモチベーションである「しなければならない、さもないと」という否定的な感情と動機づけが、相手に対して生じてしまいます。
この「Have-to」による否定的なモチベーションでは、いくら努力しようが、あくせく働こうが、根性などと騒ぎ立てようが、真の潜在能力とエネルギーを引き出すことはできません。
当たり前のことに感じるかもしれませんが、人は、自ら本心で望んでいることでなければ、やりたくもないし、成果も出せないのです。
③ セルフトークのマネジメント
マインドやエフィカシーに直接的に影響を与えるものの筆頭が、その人の使う「言葉」です。言葉の使い方がマインドを決定づけるセルフイメージや人格形成を司るからです。
個人におけるセルフトークとは、「自分自身に語りかける言葉」を指しますが、企業や組織においては、企業や組織に関わる言語はすべて「組織のセルフトーク」です。
- 企業・組織の理念・ゴール・ビジョンなど
- 組織内でのあらゆる会話・会議・記録・データ・メモ等
- マーケティング・広告文・HP等の文章
- 社内文書・ルール・取り決め・就業規則
- 顧客・クライアントとの商談・取引内容・契約書
- 顧客・取引先との連絡内容・メールの文面
- 組織の構成員同士での雑談・休憩時間での会話
- アフター5や飲み会等での話、会社や上司や部下に関する内容
- 帰宅後の家族との会話で、組織や会社に関わること
リーダーは、率いる組織やグループの構成員たちが適切なセルフトークをするような組織環境のマネジメントが必要です。
適切なセルフトークのマネジメントとは、「組織内のセルフトークが、組織の理念やゴールに合致したものになっているかどうか」という視点で見ていきます。
- リーダー自身の発するセルフトーク
- 構成員にセルフトークの重要性を認識させる
- 構成員のセルフトークに目を向ける
組織のセルフトーク・マネジメントについて、詳しくはこちら
④ エンドステートの共有
エンドステートとは、「組織の理念やゴールに基づいた、各部署やチームごとの目標・目的地」のことです。
「組織内での部署やチームや役職別における、それぞれの役割ごとでの具体的に成し遂げるべき目標・結果・状態」のことを「エンドステート」と呼びます。
組織がゴール達成に向かっていく過程において、エンドステートとは言わば、「組織のサブゴール」です。
組織がゴールを達成するために必要な「ゴールの構成要素」または「中間地点」のことです。
リーダーは、エンドステートをしっかりと認識し、またはマネジメントしなければなりません。
組織内における部署やチームやビジネスユニットごとに、しっかりと目的地が定まっていないことには、それらに属する構成員たちは、自分たちが目指すべき目標を認識できず、具体的に何をすべきかが分からなくなり、構成員たちの判断や行動に齟齬が生じてしまうからです。
リーダーによる、「明確なエンドステートの設定」こそが、構成員たちの向かうべき行先をしっかりと指し示し、彼らの心をひとつにします。
ESという真実
ESとは、「従業員満足度(Employee Satisfaction)のこと
CSとは、「顧客満足度(customer satisfaction)のこと
① 顧客第一主義の弊害
多くの企業が、企業理念や組織のあるべき姿などと称して「顧客第一主義」を掲げているところが少なくありません。
確かに企業などが、顧客の意向や感情等を無視したりおろそかにして、真っ当な商売やビジネスが長続きするはずがありません。
顧客をきちんと喜ばせることができるからこそ、組織は成長し、繁栄していくことができるのです。喜ばせることができない商品やサービスなどに対して、誰が貴重なお金を使ったり、投資をするというのでしょうか。
そんなことは誰にでも分かる自然な道理です。
こうした考え方そのものは、とても大切なことですし、企業にとって不可欠な要素です。
問題は、それが過剰に行き過ぎると、企業が従業員の幸福や豊かさをおざなりにして、顧客や利益のために社員を犠牲にすることです。
「顧客第一主義」という言葉が、それを象徴しています。
じつは、こうした考え方や企業組織というのは、安定的な成長と利益を見せたり、長続きすることはありません。
なぜかというと、単純に働き手の側が嫌になってしまうからです。
自己犠牲のうえに立つ利他というのは、建前上は美しく献身的なようにも思えますが、それが過ぎると、どんな人でも必ず限界がやってきてしまいます。単純に、疲れきってしまうのです。
② 理想的な企業理念
以下にご紹介する企業理念を見てみてください。いずれも、顧客第一主義などではなく、社員や組織の構成員の幸福を願うものになっています。
【京セラ】
社是: 敬天愛人
常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり
天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心
経営理念:
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること
経営理念の紹介ページはこちら
③ ESこそがCSを高める
多くの企業が利益やCS(顧客満足度)を高めようとして、それに躍起になりすぎるあまり、じつはその一方でES(従業員満足度)を落としてしまいます。
顧客を喜ばせようとしてやってみた施策の数々が、結果として何の成果や利益に結び付かないのは、それは、従業員の笑顔が消えるからです。
つまり、顧客満足度を高めるためには、従業員満足度を高めなくてはなりません。
顧客を満足させることができるのは、従業員の側にあり、従業員に笑顔と幸福と豊かさがあるからこそ余裕が生まれ、彼らのやる気とモチベーションは高まり、結果として成果につながるのです。
組織のゴール設定のルール2つめに「ゴールは本音で望むことを設定する」とありますが、つまりはESのことを言っています。
- ゴールは「現状の外側」に設定する
- ゴールは本音で望むことを設定する
- ゴールは組織の各方面・各分野に設定する
経営者や幹部社員の最大の使命と責任は、顧客や株主ではなく、社員とその家族の幸せの追求・実現である。顧客第一主義経営でも、株主第一主義経営でもなく、社員第一主義経営の実践である。
自分が所属する企業や組織に不平・不満・不信感を抱いている社員が、その企業や組織の業績を高めようと努力するとは、とうてい思えないからである。
また、自分が所属する企業や組織の上司や経営者に不平・不満・不信感を抱いた社員が、上司や経営者が喜ぶことをするはずがないからである。
企業の盛衰を決めるのは、顧客が感動するような価値の創造や、顧客がファン化・応援団化するような、感動どころか驚嘆のサービスを提供できるかどうかである。
そしてそれらを提供するのは、他でもない、社員だからである。
社員第一主義経営は、決して顧客を軽視しているわけではない。顧客が大切だからこそ、社員がより大切なのだ。
つまり、ES(社員満足度)なくしてCS(顧客満足度)はあり得ないのである。
社員のモチベーションが高い企業だけを抽出し、その業績を調べてみると、例外なく、その業績は高く、明確な正の相関が確認できる。
その最大の方策は、社員が、自分たちは経営者や幹部社員から大切にされている、と実感できるような経営をすることである。
加えて言えば、いつでも、どこでも、誰にでも、社員が正直な仕事ができるような経営をすることである。
坂本光司 著「経営者のノート」より引用要約
満足度調査によって、企業や組織の「今後の課題や新たなゴール設定(バランスホイール)」が見えてくるようになります。
満足度調査は、信頼のおける”外部”に委託し、社員個人や協力会社によって特定されるようなものであってはなりません。
正当な第三者機関による調査がきちんと行われるようになってはじめて、”本音”や”正確な”評価と数値が出てくるようになります。
- 自社の社員による満足度・幸福度調査
- 協力・取引先企業の社員による満足度・幸福度調査
- 顧客による満足度・幸福度調査
- 地域住民による満足度・幸福度調査