この記事では、コーチングにおける最重要キーワード「スコトーマ」(心理的盲点)について解説をします。スコトーマの原理・原則を知ると、私たちの脳・認知のメカニズムと人生・生活環境との深い関わりが理解できるようになります。
そして、人生を思い通りに過ごすための秘訣が見えてきます。
スコトーマとは?スコトーマの原理とは?

スコトーマとは、心理的な盲点のことです。
私たちの人生を良くも悪くも導く本質がスコトーマなのです。
スコトーマの例から、話をはじめます。
人は、自分に興味のあるものや重要なものにしか関心を示しませんが、それ以前に、それらに対しほとんど意識を向けないことは誰しも経験があることでしょう。
新聞を読んでいて、スポーツや選手たちの活躍に興味のない人は、それらの記事が目に留まりません。読む気も湧きませんし、どんなにすごい選手たちの偉業や活躍が描かれていようが、全く気になりません。
新聞を読む人で経済や政治に興味関心のない人はあまりいないと思いますが、それらに興味のない人は、どんなに素晴らしい知識や世界情勢、事の成り行きの変化が書かれていようがなかろうが、その人にとって政治経済の記事内容はおろか、タイトルさえも目に入りません。
これがスコトーマ、心理的盲点のことです。
人は、「自分にとって重要なこと」「緊急性の高いこと」、そしてより本質的に言えば、「自分の心の中で評価の高いこと」、これらのこと以外のことは気にしませんし、それ以前に、見えなくなるのです。
出世やビジネス展開に興味のない人は、目の前にどんなに素晴らしく、今後の自身の活躍や出世につながる貴重な情報・チャンスがあったとしても、その内容や情報そのものの秀逸性に対してスコトーマを築き、意識が向かいません。「あっそ、だから何?」という感じです。
女性は概ね、美しいものに興味がそそられます。しかし、男性の場合、そうでもありません。
非常に美しい芸術や絵画があっても、その展示会情報などがあっても、そういった情報には目もくれません。スルーします。
もう少し、例を重ねます。クルマの場合はどうでしょうか。
私自身はドライブやクルマそのものの性能にいつも興味が湧きます。フェラーリが目の前を通るだけで、テンションMAXです。

クルマやフェラーリに興味のない人、クルマの知識があまりない人、「クルマなんか自分には関係ない」というセルフイメージを持っている人は、目の前にどんなにかっこいいクルマが通っても、そういった情報冊子が本屋に並んでいても、蚊帳の外、上の空なのです。
これがスコトーマの原理です。「興味のないことや自分のセルフイメージに合致しないものが見えなくなる」という原理・原則のことです。
スコトーマを築く脳と認知の働き

ところで、このスコトーマの原理とは、すごいフィルターシステムだとは思いませんか?
私たちは物事の興味関心について、特に目を凝らして情報を取捨選択しているわけではありません。そんな大そうな努力など私たちはしていないのです。
あなたは道を歩くとき、このクルマは興味があって、こっちのクルマは興味がないからスルーしようと、いちいち考えたりしていますか?
縁日の通りを歩いていて、こっちの屋台は自分には好みだとか、この食べ物は自分はあまり好きではないから、この類のお店は目に入れないようにしようと頑張っていますか?
あなたが女性ならば、ファッションのお店を通りがかるとき、「自分にはこういうデザインと配色と値段の組み合わせこそが、自分にとっての最適解」などと、綿密に論理的な判断をしていますか?
きっと、もっと直感的な感覚の判断をしているはずです。「無意識に」という言葉が適切でしょう。
情報の取捨選択とは、無意識の仕事なのです。これもスコトーマの原理です。
この「無意識に判断をする」というところが、スコトーマの働き、ポイントです。
私たちが特別に意識をしなくても、スコトーマを築いてしまうのは無意識(潜在意識)の働きです。
この働きは、「RAS(ラス)」と呼ばれる脳内の認知におけるフィルターシステムによるものです。
本質的には、脳内のあらゆる部位や機能、そして認知活動を選択的にスイッチングするシステムのことで、「Reticular Activating System」の略語です。
「Reticular」=「網目状の(形容詞)」
「Activate」=「~を有効にする、作動させる(他動詞)」
RASを日本語では、「網様体賦活系(もうようたいふかつけい)」という訳語がついています。
RASは、脳全体を網目のように覆っていて、脳の全部位を選択的に活性化するネットワークシステムであることから、このような名前がつけられています。
スコトーマと認知活動との関係は多岐にわたります。それもそのはず、RASは前述したとおり、脳の全部位を網目状に覆い、影響範囲が及ぶからです。
先にご紹介したスコトーマの原理もそうですが、スコトーマやRASの働きは、五感すべてにも作用しています。
例えば、
- あなたは椅子に座っているとき、お尻の感触や刺激を気にしていますか?
(RASによる触覚のフィルタリング) - 仕事や趣味に集中しているとき、外の車のエンジン音や隣の住人の話声と足音を気にしていますか?
(RASによる聴覚のフィルタリング) - あなたがペットや動物を飼っていたとして、そのにおいを気にしますか?
(RASによる嗅覚のフィルタリング)
日常生活とRASとスコトーマ

スコトーマの解説としてよく用いられる話題に、「カクテルパーティー効果」というものがあります。
カクテルパーティー効果とは、カクテルパーティーのように、たくさんの人がそれぞれに会話や雑談を楽しんでいる、ざわざわとした空間の中でも、自分が意識を向けている相手の声や話は、はっきりと聞き取ることができることをいいます。
騒々しい中でも、自分の名前が遠くから呼ばれたとしても、それを自然に聞き取ることができます。
これらもRASの働きによるものです。
自分にとって重要ではない音や会話は、スコトーマとなって気にならなくなります。
反対に、自分にとって重要なものは、スコトーマが外れ、RASという脳のフィルターシステムを通り抜け、意識に上がります。
私たちの脳には、このようなRASによる脳のフィルターシステムがあらかじめ備わっているからこそ、集中したいときには、その時の自分に重要なものだけに集中し、それ以外のことには気を取られることなく、目の前の対象に意識をしっかりと向けることができます。
また、私たちの意識や脳の働きと処理がパンクをせずに済むのも、このRASによる働きのおかげです。
スコトーマができるというと、ネガティブな印象、大切なことを見逃してしまうことばかりを想像しがちですが、そうではなく、人が自然の営みの中で、自分が集中すべき物事に対して、意識をしっかりと自然に向けることができるのが、本来のRASの役割とスコトーマの原理です。
安寧な日常生活を送るために不可欠な、「自分に余計な情報を遮断するためのシステム」という位置づけこそが、本来のRASの恩恵というわけです。
スコトーマとコンフォートゾーン

スコトーマの原理・原則は以上になりますが、次に、コーチングという体系の中でのスコトーマの働きについて見ていきます。
人間が何に対してスコトーマを築き、一方でスコトーマが外れるのかというと、それはコンフォートゾーンによって決まります。
コンフォートゾーンの外側のことに対してスコトーマを築き、コンフォートゾーンの内側のことに対してスコトーマが外れます。
コンフォートゾーンとは、「その人にとって居心地がよい領域」のことです。
領域と言うと、その人が親しみを感じ好ましく思う場所をイメージすると思いますが、場所や環境のみにとらわれず、その人の身の回りの情報現象すべてに対して、人はコンフォートゾーンを持ちます。
例をいくつか挙げましょう。コンフォートゾーンとは、
- いつも行き慣れている行きつけのお店や場所
- いつも仲良くなる友人や知人のタイプ(俗に言う馬が合う人)
- 恋人の人格や人間性
- テストや成績の結果(いつも数学のテストが60点くらいの人は、60点がその人にとってのコンフォートゾーン)
- 住み慣れた環境や家
- 趣味や遊びに使うお金の金額
- 年収や生活水準、貯金額、資産等
- 健康状態(健康の人は健康がコンフォートゾーンですし、病気の人は病がコンフォートゾーンになります)
上記の例を見ると分かると思いますが、あなたの身の回りのすべてが、コンフォートゾーンになります。
人は、コンフォートゾーンの内側の世界に身を置き、安住しようとします。
コンフォートゾーンの外側に出てしまうと、潜在意識はそれを異常と感知し、居慣れたコンフォートゾーンの世界に戻るために潜在意識は全力を発揮します。
これが私たちが生得的に持つマインドの働きです。
私たちの認知や潜在意識の働きというのは、私たち自身がコンフォートゾーンの世界に安住するために、コンフォートゾーン(の内側)となる世界のことはスコトーマが外れ、よく見えるようになりますが、反対に、コンフォートゾーンの外側の事象や事柄、物事に対してはスコトーマがつくられ、見えなくなってしまうのです。
年収が500万円の生活がコンフォートゾーンの人にとっては、その生活水準を維持するための労力や知恵は、その人にとっては当たり前のことで、それが無意識的に居心地がよく、またその生活を維持するための努力の仕方やモチベーションがきわめて力強く発揮されます。
年収が500万円の生活の仕方、そのための方法がよく見えるということです。
そして、年収1,000万円の生活の仕方や稼ぎ方、そのために必要な方法に対して、脳はRASの働きによって、自動的にスコトーマを築きます。体感としては単に、年収1,000万円の生活がその人にとって全く想像がつかないのです。
これが、スコトーマとコンフォートゾーンの関係になります。
人生を変えるスコトーマを外すためには?

人生を変えるためには、スコトーマを外す必要があります。
人間は、認知のカラクリによって、今のあなたの身の回りの環境と現状をつくっているコンフォートゾーンとは関係のない世界に対してスコトーマを築きますから、何もしなければ、今の生活を維持する以外のことに関してはスコトーマができてしまい、見えなくなってしまうのです。
「年収を倍にしよう」とか、「今の病気を克服しよう」「環境や人間関係を見直そう」「人生を大幅に変えよう」としても、肝心なそのやり方や世界観がどうしても見えないのです。
この状況を打破するためには、「潜在意識に強く刻み込まれたコンフォートゾーンの領域に変更を加える」しかありません。
コンフォートゾーンの外側の世界が見えないのであれば、コンフォートゾーンそのものを変えさえすればいいのです。
コンフォートゾーンを変えるには、以下の3つの方法が効果的です。
- ビジュアライゼーション(視覚化イメージ)
- アファメーション(文章による潜在意識への語りかけ)
- セルフトーク(自己対話、自分自身に対する語りかけ)
ゴールが先、方法は後

スコトーマの原理が理解されると、コーチングにおける非常に重要なプリンシプルが見えてきます。
ゴールが先、方法は後から
多くの人は、「何かを達成しよう」「目標を設定しよう」とするとき、まず最初にそのための方法を考えようとします。
そして、その方法が思いついたり、目標達成へのアプローチが明確に見える場合に、それをゴールとして設定しようとする傾向があります。「自分にはこれならできそうだ」などという具合です。
逆に言うと、ゴールの達成方法やゴールへのアプローチが思い描けない場合は、ゴールとして設定しようとはしません。
しかし、認知のカラクリやスコトーマの原理が分かると、これは誤りだということが明らかになります。
現状のコンフォートゾーンでは、ゴールの達成方法など最初から見えるはずがないからです。
達成方法の分からないゴールこそが、正しいゴールの設定方法であり、達成方法が見えないからこそ、それをゴールとして先に設定し、その世界をコンフォートゾーンとすることで、はじめてゴールの達成方法が見えてくるようになります。
コンフォートゾーンが変われば、見える世界が変わり、新しいコンフォートゾーンが脳内に築かれると、それに必要な方法は後から勝手に見えてきます。これを「自己変革」というのです。
× 方法が先、目標は後
◎ 目標が先、方法は後
「方法や目標達成のやり方は、後から勝手に見えてくる」
- ゴールは「現状の外側」に設定する
- 心から成し遂げたいことをゴールとして設定する
- ゴールは人生の各方面にまんべんなく設定する
※ 「現状の外側」のゴールとは、現在の延長線上の未来には到底起こり得ない、自分が大きく変わらない限り、絶対に達成できないような遠く高いゴールのことです。達成方法が現時点ではまるで見えないゴールです。
力点をはき違えてはなりません。
私たちが人生を変えるために本当にすべきことは、人生を変えるための方法を探すことではないのです。
まず最初に、心から成し遂げたい人生の目標や理想の世界観、ゴールを先に設定してしまう。
そして次に、ゴールの達成方法を探すことに終始するのではなく、コンフォートゾーンを変えること。すなわち、ゴールの世界をコンフォートゾーンとするために尽力すべきです。
そうすると、スコトーマが外れ、次第にゴールへの道筋・達成方法が明らかになっていき、後から勝手に見えてきます。
ルータイスの名言集
最後に、コーチングの創始者である「ルー・タイス」の名言をご紹介して締めくくりたいと思います。

心理学者、米国自己啓発界、能力開発の世界的権威、コーチングの創始者
アメリカ・ワシントン州生まれ
”なぜ”と”何”を見極める。どのようには心配しなくていい。
Invent on the way
やり方は発明していく
頂点にいるパフォーマーは、ビジョンと目標、そして結果のイメージに誘導されています。
現状では自分に必要な情報やリソースがどこにあるのか分かっていないかもしれません。平凡な人は、信じる前に証拠を要求します。
高パフォーマンスの人は、証拠がなくても信じることができます。特定の目標を定め、それが達成できると信じることで必要なことが見つかり、証拠が次々と現れます。
平均的な人と高パフォーマンスの人(つねに運を切り開いているように見える人)の唯一の違いは、高パフォーマンスの人は異なる考え方をするため、もっと多くのものが見えているということです。
ただし、自分の能力や可能性について間違った信念や疑わしい信念が蓄積されると、それがそのまま行動に現れてしまいます。
私たちは実際に目にするものを真実として受け取りがちですが、何かをまっすぐ見つめているにもかかわらず、それを見ていないことがあります。
習慣や条件づけされた思考から離れられず、可能性を考えることで見えてくるはずの他の選択肢を締め出してしまいます。
習慣や条件づけが邪魔をして、自分が望む人生に焦点を合わせることができなくなってしまうのです。
スコトーマがあると、見たいものだけを見させ、聞きたいものだけを聞かせ、考えたいことだけを考えさせます。
一つの意見・信念・態度に縛られると、自分の信じることと矛盾するものに対してスコトーマを築きます。ものを見るときに先入観にとらわれ、何をするにも習慣にとらわれます。
スコトーマは変化や柔軟な思考や創造性を阻害します。これらのものは、私たちに情報を選別して集めさせるからです。
スコトーマは友情を壊し、結婚を失敗させ、国家を戦争に導きます。それぞれの側が、君はいったいどうしたんだ?目が見えないのか?と考えています。
率直に言えば、答えはイエスです。誰もが盲点を持っています。
スコトーマを理解すると、人生のより多くの選択肢と機会が見えるようになります。
ルータイスの名言はこちらの書籍から引用しています。
ルータイス 著「アファメーション」
【コーチングを実践するための7ステップ】
- STEP1 ゴール設定
- STEP2 スコトーマ
- STEP3 コンフォートゾーン
- STEP4 エフィカシー
- STEP5 セルフトーク
- STEP6 アファメーション
- STEP7 ビジュアライゼーション